企業のITインフラやさまざまなITサービスを実現するうえで「サーバ」は欠かせない存在で、企業が求めるIT人材として知っておきたい必須知識の1つでもあります。

本連載では、「サーバとはいったいどのようなものか?」に始まり、利用方法や種類などの基礎的な知識とともに、セキュリティ対策や仮想化、サーバレスなど効率的にサーバを利用・管理するうえでのポイントといった、情報システム担当者の実務に役立つ話題を紹介していきます。

連載第2回は、前回に続いて日本ヒューレット・パッカード コンピュート技術部の小川大地さんに、「サーバOSにはどのようなものがあるか」について解説してもらいます。

サーバOSの主流は2つ

前回はハードウェアの視点でサーバを解説しました。今回はソフトウェアの視点でサーバを見てみましょう。

スマートフォンにiOSやAndroidがあるように、またパソコンにWindowsやmacOSがあるように、サーバにもいくつかのOSがあります。2022年現在の主流は、米マイクロソフトの「Windows Server」と、いくつかの企業や団体から提供されている「Linux」(リナックス)です。

Windows PCと同じGUIで設定・管理できる「Windows Server」

まずは、Windows Server について紹介します。Windows Serverはその名前から類推できるとおり、PCに搭載されているWindowsをベースにしたサーバOSです。

Windows Serverの一番のメリットは、老若男女問わず広く利用されているWindowsのGUIが搭載されていることです。普段のオフィス業務で使い慣れたPCの画面と、ウィンドウやアイコン、ボタン、メニューの表示などが同じなので、基本的な操作に悩むことなく、運用管理が可能です。さらに、Windows向けのツールやソフトウェアはほとんどのものがWindows Serverでも利用可能です。情報システム担当として異動してきたばかりだったり、IT以外の業務を兼任されていたりする管理者に最適ではないでしょうか。

Windows Serverはファイルサーバやプリントサーバなど、社員のPCやOA業務をサポートする社内イントラネット上のサーバを中心に利用されています。現在販売されている最新バージョンは「Microsoft Windows Server 2022」です(2022年2月25日時点)。

  • Windows ServerはPCと同じGUI画面で操作できるため、管理者にとって馴染みのあるOSと言える

専門職エンジニア向けの「Linux」

次は、文字のみの白黒画面から“プロ向け”の雰囲気が漂う「Linux」です。実際、本業のITエンジニアは「Linuxを使いこなして当たり前」と言っても過言ではないでしょう。文字中心の画面操作はプログラミングに通じるものがあり 、 ある程度慣れたエンジニアにとっては操作を自動化しやすいなど何かと便利だったりします。ちなみに、ネットワークスイッチなども、LAN(Local Area Network)の中核をなす本格的な機器は同様の白黒画面で制御します。

Linuxは用途においてもより本格的な・プロ向けのシステムで利用される傾向があります。重要なデータベースサーバや、セキュリティやパフォーマンスが求められるインターネット上のWebサーバなどが代表的です。チューニング次第で、スペックが低めのマシンでも動作させることができるところも “玄人好み”かもしれません。

  • Linuxは文字中心の白黒画面で扱うことが多く、専門職向け

厳密には、Linuxは特定の製品名ではありません。専門的な話になりますが、狭義ではLinuxというと、クルマのエンジンに相当する「Linuxカーネル」のことを指します。ボディを含んだ車体に相当するものは「Linuxディストリビューション」と呼ばれ、こちらをサーバOSとして利用します。現在、国内で最も著名なLinuxディストリビューションは米レッドハットが開発・販売している「Red Hat Enterprise Linux」でしょう。

Linuxディストリビューションには無償で入手・利用できるものもあります。「Ubuntu(ウブンツ)」などが有名です。無償提供の根底には「オープンソース」「コミュニティ」と呼ばれる考え方があり、特定の企業がすべてを開発するのではなく、世界中の有志のプロ・アマ開発者が個々のプログラムを開発し、組み上げ、無償公開しています。

「タダで使えるのなら……」と導入したくなるかもしれませんが、無償のLinuxディストリビューションでは保守サポートまで無償提供されているわけではありません。難しくて使い方が分からなかったり、不具合があったりしてもベンダーを頼ることはできず、自己解決が求められます。

実際の運用管理シーンを思い浮かべつつ、そういったサポートが必要そうであれば、Red Hat Enterprise Linuxのようなメーカーサポート付きで販売されている有償のLinuxディストリビューションを利用しましょう。

「機能として追加」、「基幹システム向け」など、さまざまなサーバOS

参考までにその他のサーバOSについても、いくつか簡単に解説します。いずれも長い歴史があるものばかりで、一部私見を交えた表現もありますがご容赦ください。

macOS Server
こちらは厳密にはサーバOSではありません。米アップルのmacOSに一部のサーバ機能を追加するソフトウェアです。macOS上にインストールするため、対応機器も前回ご紹介したようなサーバ機器ではなくMacのみとなります。

UNIX
2000年代前半ごろまで主流だったサーバ・ワークステーションOSで、米IBMの「AIX」やヒューレット・パッカードの「HP-UX」、サン・マイクロシステムズの「Solaris」などが有名でした。名称が似ているとおり先ほどのLinuxとは関係性があり、UNIXの事実上の“後継”として使われているのがLinuxです(Linuxの由来は、開発者のLinus Torvalds氏の名前とUNIXの名前の組み合わせと言われています)。

ミッションクリティカル向けOS
ミドルウェアないしサーバハードウェアと緊密に動くことで、社会インフラや金融機関などの「止まってはならない」基幹システムを支える堅牢なOSがあります。米IBMのメインフレームで動作する「z/OS」や、ヒューレット・パッカード・エンタープライズの「NonStop OS」などが有名です。

Windows ServerとLinux、どちらを選ぶべきか?

今回のまとめとして、主要な2つのOSの特性を表にしてみました(下記)。

しかしながら、実際はOSではなく、サーバで動かすアプリケーション(アプリ)が先に決まるのではないかと思います。「○○サーバ」を用意するにあたっては、まずはクライアントが利用するアプリが決まり、そのアプリに対応したOSを選ぶ、という流れが自然だと思います 。

- Windows Server Linux
エンタープライズLinux オープンソースLinux
特長  PCと同様の操作感で、サーバに不慣れでも安心 エンジニアやIT専門職向け、メーカーサポートも手厚い 経験豊富なエンジニア向け安価だが自己解決が基本
広く使われる用途 ファイルサーバ、プリントサーバなど データベースサーバ、アプリケーションサーバなど Webサーバ、アプリ開発用サーバなど
難易度 初心者でも扱いやすい 中級者以上 上級者向け
費用  利用:有償 利用:有償 利用:無償
保守:有償 保守:有償 保守:なし(※)
製品例 Windows Server 2022、Windows Server 2019 Red Hat Enterprise Linux 8、SUSE Linux Enterprise Server 15 Ubuntu, CentOSなど

※オープンソース開発の中核企業やITベンダーが個別に有償サポートを請け負うケースもある

ちなみに、MacのPCはmacOS、それ以外のPCはWindows、iPhoneはiOS、それ以外のスマホはAndroidなど、購入する機器とOSがセットになっていますが、サーバ購入時にOSは付属しません。

サーバを用意する際は、希望するOSを一緒に見積依頼するか、機器とは別にOSだけを調達しましょう。

  • 「NP掛け払いforSalesforce」の特徴

小川大地
日本ヒューレット・パッカード
プリセールスエンジニアリング統括本部 コンピュート技術部 部長

サーバ製品部門にて、WindowsやVMwareといったOS・仮想化分野のソリューションアーキテクトやビジネス開発、エバンジェリストを歴任。現在はプリセールスチームを率いると共に、ハードウェアやソフトウェアのみならずクラウド分野もカバーし、「お客様のDXを支える」をキーワードにしたHPE日本法人の4つの注力分野のうち『Hybrid Cloud』もリードしている。